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商業施設新聞
[2004.11.9]
商業記者の独り言
No.23
パブロ・カザルスの演奏を懐かしく聴く
町谷 雄二
 私の趣味の一つはクラシック音楽を聴くことで、最近は、いままで入手していた多くのCDをMP3データに変換してCD-RまたはCD−RWに録音し、そのディスクを車のなかで聴いている。5枚程度の音楽CDは楽に1枚のCDに焼き付けることができるので、非常に便利である。ふつうの音楽CDであれば、運転中に1時間ぐらいで終わってしまい、次のCDを運転をしながらセットしなければならない。その点、MP3で圧縮すると、1枚のCDで5時間ぐらいは優に聴けるので非常に便利である。

 最近、懐かしいCDを聴いている。それはパブロ・カザルスが演奏するバッハの無伴奏チェロ組曲で、二十代ごろにはレコードで良く聴いていたが、CDの時代になってからはまったく聴いていなかった。この無伴奏チェロ組曲は、バッハの死後、チェロの教則本として一部の人にしか知られていない、いわば無名の曲だったが、カザルスにより世に喧伝され、現在ではバッハの代表傑作の一つに数えられている。

 その経緯は、カザルスが13歳の時にマドリードの古書店でこの組曲の楽譜を手に入れ、以来、12年間の長きにわたる研究の後、ついに公共の場での演奏に踏み切ったというもの。また、この無伴奏チェロ組曲ではチェロなどの大型弦楽器では演奏が困難とされる、2つの弦を同時に引く重奏が随所に出てきて、この面からもカザルス以前にはこの曲を完全に演奏できる人が出現しなかったが、カザルスはこれを円滑に演奏するための運弓法もこの研究中に開発し、近代チェロ奏法の基礎を築いたことでも知られる。

 当時のカザルスの演奏は妥協を許さない、戦闘的で、鮮烈なものであった。あの流れるような有名な前奏曲に始まり、様々な喜怒哀楽が織りなす物語が語られるように、曲は上下左右、臨機応変に進行していく。随所に出てくる彼の重奏演奏はある時には注意喚起を、ある時には進軍ラッパを、またある時には神の声を現しているようだ。これを二十数年ぶりに聴いていると、彼我というか、または、時間の大きな海原を感じてしまう。あの当時の共感した感性を取り戻そうとしている自分をいま大事にしたい。

 カザルスはまた、チェロ奏者としてだけではなく、作曲家、指揮者としても有名だった。彼が国連で自作の「鳥の歌」を演奏した晩年には、毎朝、何かを祈るように、バッハの平均律クラヴィーア曲集をピアノで弾いていたという。
東京・千代田区にある日本大学「カザルスホール」
東京、千代田区にある日本大学「カザルスホール」